父は日帰りの出張があって、夜六時半ごろに帰って来た。

父は着替えながら私に「出前頼んで。お前一人分だけでいいよ。俺とママは残っているトウモロコシとサツマイモ食べないと。」と言った。

それで、ハンバーガーセットを注文した。30分も経たないうちに「トントントン」と扉を叩く音がした。

「はーい!」

私は寝室から出て出前を受け取り、テーブルの左側に座った。向かい側に座っていた父はマントウを食べていた。クラフト紙のカバンを開けて、ハンバーガーをかじった。スマホを見ている父に何を話そうか、と思った。

「あっ、そういえば、日本に到着してPCR検査をして、そして隔離解除の日はちょうど私の発表日だよ。まさかスーツケースを教室に連れて行くんじゃないかな、と思って。」

「発表?何それ?」父はその言葉の意味が分からないような顔をした。

「あっ、これは中国語じゃない。スピーチみたいな意味で、資料からパワーポイントを作って、発表するんだ。」

「そっか。じゃあオンラインで発表すればいいんじゃない?」

「まぁね。けど私は他のクラスメートに会いたいの。」

「そう。で、その資料は既に手に入れたの?」

「うん。電子書籍を買ったの。『ジェンダー秩序』と『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど』。二個目のタイトルはちょっとわかりにくいと思う。」

「は?日本人にとってフェミニズムはもういらない?そんなバカな。そんなに厳しい身分制度が存在している日本で女性の地位は中国の方より低いんじゃない?」

「多分そうかなぁ。」と言って、私は残りのハンバーガーを丸吞みして、直ぐ寝室に戻った。なぜかというと、その話を聞いただけでむかついたからだ。どっちの地位が低いか。父が「鉄鏈女事件」1を知らないはずがない。中国の農村で横行する人身売買の被害者の一人として、「鉄鏈女」が農村で首を鎖でつながれて、小屋に閉じ込められていた。その女性が男性の「家系を続ける」という欲望を満たせるツールになって、8人の子どもを産んだ。恥知らずの「夫」は「8人の子どもを扶養している偉い父親」を自称していた。

しかし、私は「鉄鏈女事件」を論拠として反論しなかった。その理由は、父が「普信男」2であることだ。去年の流行語の一つで、「普信男」の意味は「そんなに普通なのに自信満々な男性」である。どんなに道理を説いても普信男を納得させることができない。彼らはいつも「俺が正しいんだ」と確信している。実際、私は何度も普信男に出くわした。オンラインゲームを遊んだ時に「お前、なんで俺の命令に従わんのだ!」と言われた。ディスカッションの時にも「おい、違う違う!俺の話をちゃんと聞け!」と遮られた。

あぁ、思い出しただけで気持ちが悪くなってきた……

そもそも私のタイプは「非典型的な男性」だ。可愛い手帳やシールやブローチなどが好きな男性である。やさしくてセンシティブな男性である。男性にも女性にも恋に落ちる可能性がある男性である。だからこそ、伝統的な考え方が多いこの社会で生き抜くのは難しい。

ここでもう一つネットで読んだことを思い出した。ロックダウンされた上海でシェアハウスに住んでいる女性が、外に出ることもできないので、食べ物はもう足りなくなった。その時に男性ルームメイトに「僕には余分な食べ物がある。一緒に食べよ。」など言葉で誘われ、強制わいせつの被害に遭われた。それのみならず、上海の娼婦は「今夜の値段はポテト20個だよ」など言葉をWeChatのモーメンツで投稿したことを写した画像もネットで流されている。

心を痛めることは数え切れない。人々が尊厳を持って生きる社会は遥か遠い。しかし私は絶対に諦めることをしない。「生きている私たちは、悪意への最高の反抗だ。」

※ Here I'd like to thank my friend @ebiten_2025 for revising this essay.


  1. 中国 首を鎖でつながれた動画の女性 人身売買の被害者と判明(NHK国際ニュース)
  2. 2020年の脱口秀大会(スタンドアップコメディ大会)で男女間の不平等をネタにした鋭い口調でジェンダー問題を取り上げて有名になった楊笠さん。彼女がよく口にした「他明明那么普通却那么自信」(ごく普通の男なのに自信満々でいられる)という言葉は、男性中心的な考え方を持つ男性が、わけもわからない自信を持つことの不思議さをズバリと言い当てて、ずっと響いている。そこから、いつの間にかそのような男性が「普信男」と呼ばれるようになった。——趙蔚青,愛知大学中日大辞典編纂所『日中語彙研究』第11号(2021)165‒180